画人伝・尾張 浮世絵師

尾張の浮世絵、牧墨僊を軸に展開

尾張地方の浮世絵は、すでに19世紀初頭に、駒新こと駒屋新兵衛が劇場の看板絵を描いたりしていたが、文化年間、葛飾北斎が二度にわたって、いずれも長期間名古屋に滞在したことによって、飛躍的な展開を見せる。北斎は、最初の時は永楽屋の依頼により『北斎漫画』の下絵を描くために名古屋を訪れ、牧墨僊(1775-1824)宅に滞在した。二度目の来名も絵手本の下絵を描くことが主目的だったらしい。名古屋の浮世絵は、喜多川歌麿と葛飾北斎に学んだ、この牧墨僊を軸に展開する。

牧墨僊は、尾張藩士であったが、公用で江戸詰になった折りに喜多川歌麿の門に学び、喜多川歌政と落款のある本や摺物を残している。北斎が名古屋の自宅に長期間滞在した際には北斎に学び、摺物を中心に多彩な活動を展開、近世名古屋における風俗画の隆盛に寄与した。また、墨僊の重要な業績として銅版制作があげられる。医学書の挿絵を銅版でおこしたり、暦などを作っている。墨僊自身の肉筆画は多くないが、門人の森高雅、沼田月斎は肉筆美人画を得意とした。

駒新(不明-不明)こましん
享和文化の頃に美人画をよく描き、劇場の看板絵などで名声をあげた。滝沢馬琴の『覊旅漫録』に名古屋名物のひとつに数えられている。門人に山本蘭亭、その門人に鈴村景山がいる。

山本蘭亭(不明-不明)やまもと・らんてい
文化・文政の人で、駒新に師事し、名古屋門前町および日置蛭子町に住んでいた。

鈴村景山(不明-不明)すずむら・けいざん
山本蘭亭および張月樵に師事。古渡東輪寺に住んでいた。

沼田月斎(1787-1864)ぬまた・げっさい
天明7年生まれ。名は正民、通称は半左衛門。別号に歌政、凌雲、落舟がある。尾張藩士で、はじめ牧墨僊に浮世絵を学び二世歌政と称したが、のちに張月樵、山本梅逸に学んだ。世俗に疎く極めて清貧で、老後は画をたのしみに風流人として生きた。元治元年6月、78歳で死去した。門人に埴原月岬、川崎千虎、沼田荷舟らがいる。

川崎千虎(1835-1902)かわさき・ちとら
天保7年12月名古屋生まれ。通称は源六、のちに鞆太郎。はじめ沼田月斎について風俗画を学び、のちに京都に出て土佐光文に師事した。明治11年上京して官職につき、19年に宮内省属帝室博物館につとめ美術品整理にあたった。30年に東京美術学校の教授となるが、翌年の岡倉天心校長を罷免する騒動の際に辞任し、天心による日本美術院の設立に参加した。大石真虎を慕い、有識故事に通じ、歴史画の名家として知られる。『名古屋浮世絵類考』の著書がある。明治35年11月27日、67歳で死去した。

沼田荷舟(1838-1901)ぬまた・かしゅう
天保9年名古屋水筒先町生まれ。名は正之。別号に朴斎がある。沼田月斎の孫。幼い頃から祖父に学び、花鳥を得意とした。東京に出て画を業とし、旧皇居の障壁画を描いた。『荷舟花鳥画譜』の著書がある。明治34年2月、64歳で死去した。

後藤月洲(不明-1835)ごとう・げっしゅう
通称は衛門七・加蔵。画を沼田月斎に学んだ。

広瀬敬斎(1839-不明)ひろせ・けいさい
天保10年5月11日名古屋七小町生まれ。名は高景。天野梅渓の子で、広瀬弾平の養嗣となった。はじめ沼田月斎に学び、のちに奥村石蘭に師事して四条派を修めた。丹波、播磨、摂津を遊歴した。

尾張(15)画人伝・INDEX

文献:愛知画家名鑑




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