画人伝・尾張 南画・文人画家 花鳥画

尾張南画の変質期

山田宮常「花鳥図」

丹羽嘉言らによって誕生した尾張南画だが、天明6年に嘉言が45歳で死去すると、尾張南画は新たな展開を迎えることとなる。南画ばかりでなく、当時の学問や文学にまで大きな影響を残した嘉言だが、流派を形成するようなことはなく、弟子などの直接的な後継者を持たなかった。また人物画を主導した西村清狂を継ぐものもなく、しだいに津田応圭によってこの地にもたらされた南蘋系の画風が主流となっていった。

その中心的な位置にいたのが「尾張南画の中興の祖」と称される山田宮常である。宮常を中心に山川墨湖、高間春渚、市川東谿らが活躍した。彼らはいずれも裕福な商人であり、その財力によって、当時、京都や長崎を中心に流行していた明清画を求め、さらには専門の画家につくまでになった。墨湖は来泊清人の費晴湖に師事に、東谿は勝野范古に学んだ。彼らの活躍により、この時期の尾張の南画は中国色の強いものとなり、南画が広い階層の人々に受け入れられていく先駆けともなった。

山田宮常(1747-1793)やまだ・ぐうじょう
延享4年名古屋生まれ。名は宮常、字は吉夫、通称は半蔵。別号に雲樵、雲嶂、拙々堂がある。幼少より文雅を好み、京都に10年ほど遊学した。その間、中国画の粉本を集め、名古屋に持ち帰った。元・明の古蹟にならい、模写の達人として知られた。南蘋風の濃彩花鳥画をもっとも得意としたが、山水や人物表現にも基礎のしっかりした力強い作品を残している。中林竹洞の若い頃の師であり、嘉言から竹洞、梅逸への橋渡しをした。寛政5年12月20日、47歳で死去した。

巣見来山(1757-1821)すみ・らいざん
宝暦7年2月16日生まれ。名は握固、字は赤子、別号に石坡、劣斎、無垢月居がある。医者の家に生まれ、幼少の頃より学を好み、俳諧をよくした。画を志したのは中年以降で、嘉言を慕い、のちに師事した。晩年は知多へ隠棲し、自然に親しむ余生を送った。文政4年7月6日、69歳で死去した。

林旭堂(1814-不明)はやし・きょくどう
文政11年12月14日生まれ。名は正維、字は子均、通称は平九郎。尾張藩士中条氏に仕えた。画を阿波徳島の井川鳴門に学び、篆刻を山口余延年に学んだ。

山口余延年(1746-1819)やまぐち・よえんねん
延享3年生まれ。知多郡大高の酒造家に生まれる。俳句も好んだが、京都の高芙蓉に学んだ篆刻で知られる。画もよく描いた。伊勢長島藩主・増山雪斎に学んだとされる。文政2年死去した。

市川東谿(1765-1838)いちかわ・とうけい
明和2年生まれ。名は元宣、字子和、通称は井桁屋茂兵衛、別号に青生、芸亭がある。大曽根坂で薬種商を営んだ富豪で、詩歌や絵画をよくし、京都において法橋に叙せられた。著書に『国郡全図』がある。天保9年2月18日、74歳で死去した。

中野龍田(1764-1811)なかの・りゅうでん
明和元年海西郡立田村生まれ。名は煥、字は季友。はじめ桑名で学び、のちに京都に出て儒学を修めた。晩年書画を好んだ。文化8年4月1日、48歳で死去した。

山川冬青(1754-1818)やまかわ・とうせい
宝暦4年生まれ。名は貞、字は玉幹。山川墨湖の妻。書の橋本修竹の娘で、幼くして書を学び、画も巧みだった。13歳の時に魚藻の画巻を作り、周りを驚かせた。墨湖と結婚してから夫とともに画に精進した。文政元年4月18日、65歳で死去した。

尾張(6)画人伝・INDEX

文献:愛知画家名鑑尾張の絵画史




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