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江戸木挽町狩野と伊予大洲藩の文人大名

加藤文麗「唐人龍虎図」

江戸時代も中頃を過ぎると、伊予の各藩では常任の絵師をおくことが一般化し、藩主自らが絵筆を握る文人大名も現れるようになった。大洲藩三代藩主・加藤泰恒は、江戸木挽町狩野二代・狩野養朴常信の門に入り、「泰常」と号して画技をよくした。その六男である加藤文麗も木挽町狩野三代・狩野如川周信に学んで、画技をみがいた。文麗は江戸画壇でも名高く、谷文晁の最初の師としてもよく知られている。大洲地方には、泰恒・文麗父子とのつながりから、中央画家の名品が多く所蔵されており、のちに出る若宮養徳らは、その模写につとめ、大和絵から漢画風のものまで、幅広い画題に目を向けて作画する環境にあった。

加藤泰恒(1657-1715)かとう・やすつね
明暦3年江戸生まれ。大洲藩三代藩主。初号は泰経、泰常。別号に遠江守、乗軒、傑山がある。美作守加藤泰義の子で、後年遠江守に命じられ、大洲藩主となった。江戸木挽町狩野二代・狩野養朴常信について狩野派の画技を修めた。当時、天下三百諸侯のうち豊後日出の城主とともに画道の両雄とされ、画のほかにも、武道、禅学、能学、和歌、書、茶道などあらゆる学問に通じた文人大名だった。それらの学芸と見識は、将軍家の接待役をつとめ、宮廷の文化人らとの付き合いによって培われたものと思われる。作品は大洲地方に多く残されている。正徳5年、59で死去した。

加藤文麗(1706-1782)かとう・ぶんれい
宝永3年大洲生まれ。加藤泰恒の六男。正徳3年、8歳の時に大叔父泰茂の養子となり、江戸に住んだ。のちに寄合、火事場見廻り、西丸御小姓組番頭となり、従五位下に叙せられ、伊予守に命じられた。画は父と同門の木挽町狩野三代・狩野如川周信について学んだ。宝暦6年、45歳の時に病のため職を辞し、48歳で隠居、入道して「予斎」と号し、上野池之端に画室を構えて画道に専念した。谷文晁の最初の師としても知られており、文晁が10歳を過ぎたばかりの頃に出会い、たいへん可愛がり、絵の手ほどきをしていた。文麗の没後は文晁は渡辺玄対について画技を学び、その後、江戸南画を確立していった。また、文麗は、宗家の大洲藩との付き合いが多く、大洲の地に数多くの作品を残している。その画風を伝えるものとして、門人の岡田文鴻、平山文鏡が著した『文麗画選』には「唯、画を楽しみとし、神境に至った。描くところは山水、草木、花鳥、人物あらゆるものを筆にした。中でも人物を得意とし、その作画態度は、筆をなめ、思を積み、日を重ねて後成るものでなく、すべて一払のもとに絵を成した。これを得る者は玉珠にも比した」とある。大洲藩内には、伊予市稲荷神社の「神狐図」、大洲八幡神社の「曳馬図」など文麗の筆による絵馬が多く残っている。また、京都建仁寺開山堂にも「龍虎図」が残っている。天明2年、77歳で死去した。

木村常房(不明-不明)
正徳頃の人。狩野派の画人。如法寺に「元禄元年庚午藤原狩野常信門人 木村常房謹画」と銘の入った絵馬が掲げられている。

高田円乗(不明-不明)たかだ・えんじょう
江戸の人。加藤文麗の門人。名は正和、別号に文庸斎がある。菊池容斎の師として知られる。文麗を描いた肖像画が『近世名家肖像伝』に掲載されている。大洲八幡神社には、常信・周信父子の絵馬や、高田円乗ら木挽町狩野の画系をひく画人たちの絵馬が多く残されている。

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文献:伊予の画人愛媛の近世画人列伝-伊予近世絵画の流れ-、伊予文人墨客略伝




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