画人伝・滋賀 日本画家 宗教画

官展を離れ孤高の宗教画家の道を歩んだ杉本哲郎

杉本哲郎「欣求西方浄土」滋賀県立美術館蔵

杉本哲郎「欣求西方浄土」滋賀県立美術館蔵

杉本哲郎(1899-1985)は滋賀県大津市に生まれた。はじめ近隣に住んでいた日本画家の山田翠谷に画の手ほどきを受け、14歳の時に商業学校から京都市立工芸美術学校に転校したのを機に、山元春挙の私塾・早苗会に入り「春江」の号を与えられた。16歳の時に京都市立絵画専門学校に編入し、在学中から産業博美術展や無名展などに入賞を果たし、次第に画家としての頭角をあらわしていった。

大正11年、第4回帝展に初入選したが、会場で自らの芸術観とかけ離れた作品群を見て帝展の作品傾向に疑問をいだくようになり、その翌年自由な研究の場を求めて同志たちと美術研究会「白光社」を結成したが、これが師の春挙の意に添わず、早苗会を除名破門となり、「春江」の号を捨てることとなった。

以後官展への出品を断念し、東洋古美術の研究を目指すようになった。昭和10年からは美術史家の高橋順次郎、松本又三郎らに大きな影響を受け、仏教美術の研究に着手した。日本画の源流を仏教美術に求め、東洋アジアやインドの仏教壁画を模写し研究を深めるうちに、次第に画作の到着点を「宗教壁画」ととらえるようになっていった。

その後、国の内外で大規模な宗教壁画を手掛けていき、昭和44年、70歳の時に福岡市のメシア教本部から依頼された「世界十大宗教壁画」の制作に取り掛かった。この壁画は、仏教、ヒンズー教、ジャイナ教、ゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教、マニ教、イスラム教、道教、古神道の神々、その中心に神々の座であるヒマラヤ山脈を据えた合計25点からなる一大作品で、12年の歳月をかけて完成させた。

杉本哲郎(1899-1985)すぎもと・てつろう
明治32年滋賀県大津市生まれ。明治42年から山田翠谷に画の手ほどきを受け、大正2年京都市立美術工芸学校に入学。同年山元春挙に師事し早苗会に入塾し「春江」と号した。大正4年京都市立絵画専門学校に入学。同年第2回産業博美術展に入選、翌年第1回無名展で銀賞を受賞した。大正9年京都市立絵画専門学校卒業。大正11年第4回帝展に初入選。しかし官展の作品傾向に疑問を抱き、大正12年同志とともに美術研究会「白光社」を結成し、春挙から破門される。以後官展での作品発表を断念し、東洋古美術の研究を目指すようになった。昭和10年高橋順次郎、松本又三郎に学ぶ。昭和12年外務省文化事業部嘱託としてインドのアジャンタ壁画の模写に従事、翌年セイロンのシーギリヤ壁画の模写も行い、両壁画は恩賜京都博物館(現在の京都国立博物館)に寄贈された。昭和15年満州史跡調査団としてモンゴルのワーリン・マンハ慶陵壁画模写に従事。昭和18年東本願寺南方仏教美術調査隊としてインド、カンボジア、クメール、タイ、スマトラ、ジャワなどの仏教美術を調査。昭和25年滋賀県立琵琶湖文化館壁画(旧産業文化館から移築保管)「舎利供養」を制作。昭和26年インド・シャンチニケータン大学客員教授として教鞭をとる。昭和35年サンフランシスコ・デ・ヤング美術館で個展開催。昭和38年大阪高島屋・東京三越で回顧展開催。昭和44年東本願寺津村別院壁画「無明と寂光」を完成。同年福岡市のメシア教本部から万教帰一の壁画「世界十大宗教」の制作を依頼され、12年後に完成。昭和60年、85歳で死去した。

滋賀(39)-画人伝・INDEX

文献:近江の画人、滋賀の日本画




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