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熊本近世絵画のはじまり-矢野派の祖・田代等甫

伝田代等甫「細川幽斎像」

熊本城の正確な築城年代は明らかになっていないが、慶長15年(1610)頃には大広間や花畑屋敷は完成していたと考えられている。当時は、各地の城で大規模な障壁画が描かれるようになっており、熊本城築城にあたっても、加藤清正(1562-1611)によって、京都から狩野永徳の門人・狩野喬信ら12名の絵師が招かれ、障壁画を描いたという。これが熊本の近世絵画の始まりとされる。狩野喬信らに関する直接的な史料は残っておらず、障壁画も西南戦争によって焼失した。

寛永9年(1632)、加藤家の改易によって熊本入りした細川忠利は、雪舟の系統を継ぐ雲谷等顔の門人・田代等甫(不明-不明)を絵師として召し抱えた。等甫は、細川家が小倉にあったころから忠利の父・細川忠興(三斎)に仕えていた絵師で、細川家の肥後入国後は三斎に従い八代に移り住み、八代で没した。詳しい経歴は定かではなく、確実視されている等甫の作品は《細川幽斎像》のみが残っている。

江戸時代を通じて細川藩御用絵師の中核をなした矢野派は、この田代等甫に始まる。その弟子として伝わる矢野三郎兵衛吉重(1598?-1653)が矢野派初代、その子・吉安が二代、さらにその子・茂安が三代と続いたが、茂安の代では、狩野派への流儀替を仰せ付けられ、それが達成できずに矢野派は茂安一代限りと申し渡されるなど、苦境にたたされる。その後、矢野派の不振は、養子で四代目を継いだ雪叟の努力によって回復されることとなる。

また、等甫や吉重らと同時代に細川家に仕えた絵師に八並市右衛門(不明-不明)がいるが、画史類にもその名が見えず、人物像は不明である。

田代等甫(不明-不明)たしろ・とうほ
矢野派の祖。『肥后藩雪舟流画家傳』には「田代氏不詳名字、長州人、雪舟三世画胤雲谷等顔門人、嘗仕于 三斎君小倉、寛永年間於八代城下死、其画當時之能品也」とあり、細川家の正史『綿考輯録』第六、慶長17年8月の条には、細川幽斎の三回忌にあたり、幽斎夫人の光寿院から、二幅の細川幽斎像制作が等甫に命じられたことが記されている。

矢野三郎兵衛吉重「破墨山水図」

矢野三郎兵衛吉重「破墨山水図」

矢野三郎兵衛吉重(1598-1653)やの・さぶろべえ・よししげ
矢野派初代。12、3歳の時に小倉で細川三斎に仕え、のちに忠利に仕えた。寛永9年小倉城本丸座敷絵を制作、熊本では寛永12年熊本城本丸天守の修理および花畑屋敷の作事にあたった。寛永13年江戸上屋敷の画事、寛永13年唐人絵書日二宮の奉公願い出、寛永14年知行百五十石を拝領、同年細川家菩提寺泰勝寺の絵制作および島原の乱戦況絵図制作、寛永17年江戸下屋敷式台間の絵、寛永20年細川忠利像、慶安4年肥後国大絵図の制作にあたった。承応2年死去した。

矢野吉安(不明-不明)
矢野派2代。矢野三郎兵衛吉重の二男。名は勘助。直守、泛谷と号した。

矢野茂安(1673-1752)
矢野派3代。延宝元年生まれ。矢野吉安の子。通称は茂左衛門。号は泛谷。元禄2年に藩絵師となり60余年画職をつとめた。元禄11年公儀絵図改に際し肥後および豊後国内の細川領内の絵図を制作した。宝永3年藩絵奉行になった。正徳2年狩野派への流儀替を仰せ付けられ、正徳3年狩野派への流儀替がならず矢野派は一代限りと申し渡された。宝暦2年、80歳で死去した。

熊本(1)-画人伝・INDEX

文献:肥後の近世絵画、細川藩御用絵師・矢野派、肥後書画名鑑




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