画人伝・徳島 南画・文人画家

柴秋邨と周辺の南画家

阿波生まれの儒者・柴秋邨(1830-1871)は、幼くして父を失い、貧乏から身をおこして儒者になった。書も画も達人だったが、大酒飲みで酔余の作が多い。門弟が多くて交友も広く、河野鐵兜、藤井藍田らとも親交があった。貫名海屋が自分の跡継ぎにしようとしたが秋邨のほうから断ったという。また、秋邨と親交のあった滝山霞崖(1826-1875)は、福田半香に師事して南画を学び、さらに霞崖に学んだ僧・阿部雪庵も南画をよくし、その門には近久雪巌、曽木聴松、雪琴らがいる。

柴秋邨(1830-1871)しば・しゅうそん
天保元年生まれ。幼名は卯吉、字は緑野、通称は六郎。初号は繭山、のちに秋邨に改号した。別号に東野、帰樸、紅賓、秋孫などがある。堂号に吹万洞、佩香草堂などがある。徳島新町橋北詰西横町の町人・清左衛門の子。幼くして父を失い母に養育された。はじめ医術を学び、のちに漢学を新居水竹に学んだ。さらに江戸に出て大沼枕山に師事、のちに大坂の広瀬旭荘に入門した。嘉永3年に旭荘から、旭荘の旧号である「秋邨」の号を授かり、塾長となった。のちに蘭学を志したこともあったが、山陽地方、九州に遊び、安政4年豊後日田の咸宜園を訪ね、広瀬淡窓塾の世話役をした。文久元年には藩の儒官に任命された。詩書画に長じ『秋邨遺稿』がある。明治3年の庚午事変に関与して3年の処分をうけたが、明治4年、42歳で死去した。

遠藤秋岳(1846-1911)えんどう・しゅうがく
弘化4年生まれ。名は蓁。徳島佐古の遠藤磯右衛門の二男。医師。幼いころ柴秋邨について草書と南画を学んだ。明治44年、66歳で死去した。

泉智等(1849-1928)いずみ・ちとう
嘉永2年生まれ。麻植郡鴨島の花桝伊兵衛の六男。号は物外。12歳で僧籍に入った。柴秋邨に学んだ。昭和3年、80歳で死去した。

滝山霞崖(1826-1875)たきやま・かがい
文政9年生まれ。名は寛輔。藩士。徳島紺屋町に住んでいた。福田半香の門人で、詩および南画を得意とした。古藤半仙、柴秋邨らと交友した。諸国を遊歴、一時は立江の八幡神宮の宮司をした。月琴の名手でもあった。明治8年、50歳で死去した。

阿部雪庵(1823-1879)あべ・せつあん
文政6年生まれ。名は幢徴。板野郡住吉の福成寺の住職。美濃の武士だったが、18歳のころ河内国延命寺の照遍の弟子となった。画は滝山霞崖に学び、南画と書をよくした。明治12年、57歳で死去した。

雪琴(1843-1893)せっきん
天保14年生まれ。名は朝研。板野郡奥野観音院の僧。幼名は伊四郎。藍住町東中富の高橋弥代太の子。福成寺の阿部雪庵について密法と書画を学んだ。明治26年、51歳で死去した。

近久雪巌(1853-1945)ちかひさ・せつげん
嘉永6年生まれ。名は保子。牛島上浦の人。南画を阿部雪庵に学んだ。女流漢詩人として名を知られた。教育者として20数年教職にあった。明治13年徳島女子師範学校を卒業。馬で通学していたという。昭和20年、93歳で死去した。

曽木聴松(1854-1914)そぎ・ちょうしょう
安政4年生まれ。徳島東富田・曽木幸長の子。名は惟長。幼名は鶴太郎。南佐古に住んでいた。家は藩士。阿部雪庵に山水を、後藤田南渓に花鳥を学んだ。大正2年福岡に移り官途についた。明治17年の内国絵画共進会に出品している。

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文献:阿波の画人作品集、阿波画人名鑑




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