小見寺八山「ＮＵＥ」奈良県立美術館蔵
大正１４年、京都から奈良に住まいを移した小説家の志賀直哉は、先に奈良に移住していた足立源一郎のアトリエ横に、昭和４年、数寄屋造の家を新築した。志賀の奈良への移住は、京都で親交があり、大正１２年に奈良に移住していた九里四郎（1886-1953）の勧めがあったという。
志賀邸の広間には、地元の文学者や芸術家をはじめ、奈良を訪れる様々な文化人が集まり、一種の文化サロンが形成されていた。そのなかの一人で、特に志賀との交流が深かった小見寺八山（1889-1934）は、志賀の短編小説『淋しき生涯』の主人公である大宮蜂山のモデルとなったことで知られている。
大正１５年には志賀の友人で白樺派の作家、武者小路実篤が奈良を訪れ「新しき村」の奈良支部を開設した。武者小路の奈良在住は１年ほどだったが、講演会や演劇などの文化活動を展開し、西洋の名画の複製画を展示する「泰西名画展覧会」を開催するなど、奈良の画家たちに大きな刺激を与えた。
志賀は、奈良の美術家たちを様々な形で支援し、その交流は昭和１３年に志賀が奈良を去ってからも続き、その後、東大寺観音院の住職だった上司海雲による「好日会」や「天平乃会」などに引き継がれた。
小見寺八山（1889-1934）おみでら・はっさん
明治２２年新潟県生まれ。本名は小見寺七郎（こみでら・しちろう）。上京後、郵便局や警察につとめるかたわら太平洋画会研究所で満谷国四郎に学んだ。大正８年銀行家の山口氏の知遇を得て奈良に移住。大正１１年から翌年にかけて渡欧、サロン・ドートンヌに「ＮＵＥ」（掲載作品）が入選した。大正１５年中国に遊び、帰国後個展を開催。奈良風景を題材に国画会展、帝展、太平洋画会展などに出品し、昭和４年太平洋画会会員となった。昭和９年七彩会を組織し、第１回展を開催したが、同年、４５歳で死去した。
九里四郎（1886-1953）くり・しろう
明治１９年東京麻布生まれ。本名は九里（くのり）。はじめ和田英作に師事し、東京美術学校西洋画科に入学し、明治４３年卒業した。在学中に第１回文展に入選を果たし、以後３年連続で入賞した。明治４４年から翌年にかけて渡欧。帰国後は官展を離れ、大正３年二科会の創立に参加し、以後同展に出品した。大正１２年から昭和４年まで奈良に住み、同年大阪美術研究会に参加した。晩年は東京で料理屋の経営などに携わり、昭和２８年、疎開先の長野で６７歳で死去した。
奈良(12)－画人伝・INDEX
文献：美の新風 奈良と洋画、近代奈良の洋画、描かれえた大和
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