画人伝・岡山 南画・文人画家 中国故事

広重版画にも使われた『日本勝地山水奇観』の著者・淵上旭江

淵上旭江・宮本君山「唐武将図」

備前に生まれ、諸国を歴遊したのち大坂に定住した淵上旭江(1753-1816)は、各地の名勝を描いた画と詩による版画集『日本勝地山水奇観』を寛政11年に刊行した。同書はのちに歌川広重の名勝版画に利用され、また明治の学校教科書の挿図にも採用されたこととなり、一躍その名を知られるようになった。また、旭江と大坂で交友のあった備中出身の宮本君山(不明-1827)も、同じように諸国歴遊ののちに大坂に定住して活躍した。君山に関する資料は少ないが、大坂文人画壇の有力者である岡田半江と同列に扱われた知名人とみられ、南画の入門書『漢画独稽古』などの著書がある。

淵上旭江(1753-1816)
宝暦2年児島郡上山坂村の農家に生まれ、まもなく宮ノ浦に移ったらしい。名は禎、字は白亀、はじめ曲江と号して、のちに旭江と改めた。幼いころから画を好んだとされるが、本格的に学ぶのは明和年間に備前・備中に望月派の大西酔月が来遊した際に、岡鶴汀、その弟・延年、平曼容らとともに師事して以降のことである。20歳頃に故郷を出て20余年にわたり諸国を遊歴した。四国から九州へ渡り、長崎の地に滞留した際に清の画家・沈南蘋の画法をはじめ、明清画の画法を習得したものと思われる。

豊後竹田の岡城下を訪れた際には、田能村竹田の師である淵野真斎らに画技を教授した。竹田の記述によれば、当時の岡城下の絵画界は、狩野派が独占していたため、旭江の出現により人々はいわゆる漢画なるものを知り、旭江の画を求めて殺到したという。42歳の時に、大坂江戸堀に定住し、女性画家・鈴川玉簾と同居、十時梅厓、皆川淇園らと交友した。寛政11年に諸国名勝を写生した画稿に詩を付けた版画集『日本勝地山水奇観』4冊を、続いて享和2年には続編4冊を刊行した。さらに拾遺編、付録を上梓する準備を進めていたが、旭江の死去により未刊に終わった。同書は当時盛んになりつつあった旅行熱に拍車をかけた人気作品であり、のちに歌川広重の名勝錦絵にも利用された。文化13年、64歳で死去した。

宮本君山(不明-1827)
名は瓊、字は伯鳳。別号に峨洋がある。備中中洲、備中上刑部村大井野の人とされるが定かではない。画は『芥子園画伝』などの画譜・画論類により学んだとみられ、人物画から推測すると、伊勢山田寂寺の画僧・月僊に師事した可能姓も認められる。君山については遺作をふくめ、関係資料が少ないが、長崎に遊学したことと、享和年間から少なくとも20年間近く大坂心斎橋瓦町に在住していたことが確認されている。当時の大坂ではかなりの知名人であったことが、『浪華画人組合三幅対』に大坂南画壇の人気画家だった岡田半江らと同列に並んでいることからも推測できる。

長崎遊学の際に豊後竹田を訪れた際のことだと思われるが、田能村竹田が「君山先生が来遊され、文晁・孟熙・成寛らの作品を持参してみせられたが、その結果画道が大いに開けた」という意味のことを『竹田荘師友画録』に記している。文化4年には著書『漢画独稽古』を出版、絵手本のほかに画論、著名画家、用具などに言及した絵画入門書で、人気を博した。また、倉敷の医師・古屋野意春が刊行した『萬国図解説』の挿絵として世界図を描いている。文政10年死去した。

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文献:岡山の絵画500年-雪舟から国吉まで-岡山県の絵画-古代から近世まで-、岡山県美術名鑑、備作人名大辞典




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