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近世最大の鳥類図譜『堀田禽譜』を編さんした堀田正敦

堀田禽譜のうち「朝鮮おしどり」 提供:東京国立博物館

仙台藩六代藩主・伊達宗村の八男として仙台に生まれた堀田正敦は、近江の堅田藩主・堀田正富の養子となり、その後佐野に国替えとなり、佐野藩主をつとめた。また、幕府では若年寄を42年間つとめ、老中松平定信を補佐し寛政の改革にも携わった。高い学識を持ち、定信の文化人サークルの中心人物として活躍、近世最大の鳥類図鑑『堀田禽譜』を編さんしたことでも知られている。

『堀田禽譜』は、千数百点にも及ぶ鳥の図版を収録し、さらに充実した解説編「観文禽譜」を伴っており、江戸時代の鳥類図譜として最大の情報量を備えている。また、和漢の古典を引用し、薬学的効用にも触れるなど、包括的に鳥を扱っているのも特長である。ペンギンやオウムなどの異国種、あるいは白カラス、白オシドリなどの変異体、さらには絶滅が危惧されている希少種などの図版も数多く収録されており、その鮮やかで的確な彩色は、生物学的のみならず美術的にも貴重な資料とされている。

掲載の「朝鮮おしどり」は、現和名をカンムリツクシガモといい、現在絶滅した可能性が指摘されている世界的に希少な鳥である。発見当初は、雑種のカモだと思われていたが、『堀田禽譜』に出所と捕獲年の異なる複数の個体が掲載されていたことから、この鳥が雑種ではなく、独立した種であると考えられるようになった。

堀田正敦(1755-1832)ほった・まさあつ
宝暦8年仙台生まれ。仙台藩六代藩主・伊達宗村の八男。兄は七代藩主・重村。幼名は藤八郎。号は水月。天明6年近江堅田藩主・堀田正富の養子となり、文政9年佐野に国替えとなった。幕府の若年寄を43年間つとめ、財政事務を担当し、老中松平定信らを補佐した。近世最大の鳥類図鑑『堀田禽譜』を編さん。ほかに『水月文章』『水月詠藻』『幕朝年中行事歌合』『蝦夷紀行』などの著書がある。天保3年、75歳で死去した。

宮城(14)-画人伝・INDEX

文献:仙台市史特別編3(美術工芸)、江戸鳥類大図鑑




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