画人伝・長崎 花鳥画 中国故事

唐絵目利の祖・渡辺秀石とその画系

渡辺秀石 左:「野稲群雀図」、右:「鶴寿老人図」

唐絵目利とは、長崎の地役人のひとつで、江戸時代唯一の開港地だった長崎に入ってきた絵画の制作年代や真贋などを鑑定、さらにその画法を習得することを主な業務とした。当初、絵目利と呼ばれていたが、元禄10年に渡辺秀石の時に唐絵目利と改められ、秀石がその祖と称された。世襲制で引き継がれ、はじめは渡辺、石崎、広渡の3家だったが、享保19年に荒木家が加わり4家となった。また、長崎奉行所には御用絵師がおかれたが、唐絵目利が兼務することが多かった。渡辺家は、秀石の弟・秀岳は唐絵目利の就任を拒否したが、子の秀朴が跡を継ぎ、元周、秀渓、秀彩、秀詮と続いた。秀溪や秀彩の没年時の年齢が不明なことから、秀彩の代で一度渡辺家の流れが途絶えたようにも考えられる。

渡辺秀石(1639-1707)
寛永16年生まれ。岩川甚吉の長男。のちに渡辺に改姓した。通称は甚吉、字は元章、または元昭。仁寿斎と号した。別号に嬾道人、煙霞比丘などがある。幼いころから画を好み、逸然性融に師事して北宗画を学び、同門の河村若芝とともに長崎を代表する画人となった。肖像画もよくした。元禄10年長崎奉行近藤備中守に、唐絵目利兼御用絵師に任命され、唐絵目利の祖となった。元禄12年に勘定頭荻原近江守、目附林藤五郎らが長崎港巡視に来た時、唐人屋敷、阿蘭陀屋敷二箇所の絵図を作ることを命じられた。唐通事会所目録秀石の作品には落款・印章のないものがあり、また秀岳、秀朴、元周、秀溪、秀彩にも落款・印章のないものが多いと考えられ、区別が非常に難しいといわれる。宝永4年、69歳で死去した。

渡辺秀岳(1644-1734)
渡辺秀石の弟。岩川甚吉の二男。通称は三郎兵衛生、字は元英、号は安斎。画を兄秀石に学んだ。画才は秀石に劣らず、秀石に「吾れ実に其兄たり難し」と言わせたいう。余暇に天文兵法を修め、騎射撃剣をよくした。世間に合わせようとしない人柄で、唐絵目利を任命されたが辞退し、その後、肥後の細川公の招聘も辞退した。晩年は鳴滝の地で過ごし、時に門人を集め、兵法を説き、歴史を談じた。享保19年、91歳で死去した。

渡辺秀朴(1662-1756)
渡辺秀石の子。通称は源吉、字は元寿、号は壺溪。若いころからよく画を写し、画の六法を備えた。元禄10年父秀石とともに唐絵目利兼御用絵師となった。寛保2年まで45年間勤め、老齢を理由に70歳で辞職し、己然居士と号した。題材に似せようとせず、人物や鳥獣を描いても、体は大きくて頭が小さかったり、脛が長くて腕が短かったり、手の指が多すぎたり少なかったりし、顔付きや表情は怪異であり、不思議であることが、かえって人々から敬慕されたという。宝暦6年、84歳で死去した。

渡辺元周(1676-1735)
渡辺秀岳の子。通称は八郎兵衛、字は文明、号は真斎。絵事は父に劣らなかった。詩をよくし、武を好んだ。享保18年唐絵目利兼御用絵師となった。享保20年、60歳で死去した。

渡辺秀溪(1700頃-1751
渡辺元周の子。通称は文次郎または文治郎、字は元俊、号は雅徳斎。生まれながらに画才があり、幼いころからいろいろなものを写生し、その絵は真に迫り工夫も多く、人々を驚かせたという。これを知った秀朴は自らの職を自分の子ではなく、秀溪に譲った。享保16年沈南蘋が長崎に来舶した際に、孔子および関羽二像を描いて南蘋に贈ったところ「秀溪先生は唐代の画人の意気を持ち、宋代の画人と相競う実力者であり、ここに鳳凰と麒麟の絵を描きました」という書状と絵を貰っている。この時、南蘋は50代、秀溪は30代だった。享保20年父元周の死に伴い、唐絵目利見習となり、寛保2年秀朴の辞職に伴い、唐絵目利本役兼御用絵師となった。宝暦元年、50余歳で死去した。

渡辺秀彩(不明-1761)
渡辺秀溪の子。通称は丹次または丹治、字は元素、号は文帝。宝暦元年父の秀溪の死に伴い、その跡を継ぎ唐絵目利兼御用絵師となった。宝暦11年、40余歳で死去した。

渡辺秀詮(1736-1824)
元文元年生まれ。渡辺秀溪の養子。字は元論、号は自適斉、為章道人。本姓は石津氏。はじめ吉十郎、のちに正助と改めた。宝暦11年養父秀溪の没後、21歳で唐絵目利兼御用絵師となった。絵は石崎元章に師事し、石崎元徳の指導も受けたと考えられる。渡辺家の家法もよく伝えたとされるが、一度の秀彩の代で渡辺家の流れが途絶えたように考えられる。そのことは秀溪や秀彩の没年時の年齢の不明なことからも感じられる。虎を描くことを得意とした。渡辺家では、秀石以降、画上にほとんど落款・印章を付さなかったが、秀詮の時から付すことになった。文政7年、89歳で死去した。

長崎(4)-画人伝・INDEX

文献:唐絵目利と同門、長崎の肖像 長崎派の美術家列伝




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