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抽象表現に南画の新しい境地を拓いた大山魯牛

大山魯牛「突兀」

大山魯牛「突兀」

大山魯牛(1902-1995)は、東京日本橋に生まれ、生後すぐに実家のある足利に移った。3歳の時に病気のため右足を切断し、手術時の後遺症で左耳の聴覚を失った。10歳頃から本家の所蔵品の虫干しを手伝いながら南画風の絵に親しみ、17歳で上京して南画家・小室翠雲の画塾「環堵画塾」に入門した。21歳の時に起こった関東大震災によって画塾が閉鎖されたために帰郷し、師の翠雲の師である田崎草雲の旧居「白石山房」の2階の画室に通い一人で絵画修行に励んだ。

足利で制作を続け、22歳の時に日本南画院展で奨励賞を受賞して院友に推挙され、翌年には第7回帝展に初入選した。帝展には第9回展から第11回展まで連続入選したが、その後は出品するのをやめ、日本南画院にのみ作品を発表した。25歳の時に再び上京して同郷の先輩である石川寒巌らと下北沢に画室を建てて制作の拠点ちし、帝展改組の影響で日本南画院が解散してからは、大東南宗院、南画院などにも出品、戦後は新興美術院に所属し要職を歴任して活躍した。

魯牛が南画を始めたころには、江戸後期に全国的な流行をみせた南画はすでに衰退し、もはや南画は成立しがたい時代になっていた。魯牛の師の師である田崎草雲は、そのような状況のなかで南画の基礎理念を貫き、多彩な表現を研究して激しく変化する日本絵画の近代化に対応していこうとしていた。その流れは師の翠雲を経て魯牛にも受け継がれ、魯牛は、抽象的な風景画を手がけるなど、南画の精神を基本にした多様な表現を模索し、平成の時代に伝えた。

大山魯牛「柿」

大山魯牛「柿」

大山魯牛(1902-1995)おおやま・ろぎゅう
明治35年東京市日本橋区米沢町生まれ。呉服商・大山吉次郎の長男。本名は龍一郎。生後すぐに実家のある足利市に移った。明治38年病気のため東京医科大学で右足を切断、手術時の麻酔の後遺症で左耳の聴覚を失った。大正8年宇都宮市の市立下野中学校(現在の作新学院)を卒業後、小室翠雲主宰の環堵画塾に入門し南画を学び、雅堂と号した。大正12年関東大震災のため画塾が閉鎖されたため足利に帰郷、田崎草雲の遺居「白石山房」の2階を画室として借りて一人修行に励んだ。大正13年第3回日本南画院展で奨励賞を受賞して院友となる。翌年第7回帝展に初入選。帝展には第9回展から第11回展まで連続入選したが、その後は帝展に出品するのをやめ、日本南画院にのみ作品を発表するようになる。昭和2年再び上京し、石川寒巌らと下北沢に画室を建設。昭和7年小杉放菴主宰の「老荘会」に参加。昭和10年雅号を魯牛に改号。昭和20年足利に疎開し、武者小路実篤や中川一政らを招いての講演会や展覧会などを地元の有志と開催するなど文化活動を行なった。また、山形県船形町の林昌寺位牌堂の天井に60枚の花卉図を描いた。昭和24年一家で再上京し下北沢に戻り制作を続けた。昭和30年第5回新興美術院で奨励賞を受賞し準会員となり、次いで開催された新興秋季美術院展で準会員賞を受賞して会員に推挙された。以後新興美術院に出品を続け、昭和34年新興美術院理事となり、昭和44年同展で文部大臣賞を受賞、同年常任理事となり、昭和63年同展内閣総理大臣賞を受賞した。平成7年、93歳で死去した。

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文献:生誕100年記念大山魯牛展、北関東の文人画、足利市立美術館所蔵品図録




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