江戸時代を中心に全国各地で活動していた画家を調査して都道府県別に紹介しています。ただいま近畿地方を探索中。

UAG美術家研究所

「春日権現験記絵巻」を描いた高階隆兼

高階隆兼「春日権現験記絵巻」(巻第一 部分)国宝 皇居三の丸尚蔵館蔵

「春日権現験記絵巻」は、藤原氏の氏神である奈良・春日大社の霊験を題材にした全20巻の絵巻で、鎌倉時代末期の制作だが、平安時代以来のやまと絵の伝統を集大成する作品と位置付けられている。絹地を使ったぜいたくなつくりで、華麗な色彩と自然や建物の表現に繊細な貴族芸術の美意識が行き渡っている。

奥書から延慶2年(1309)、左大臣・西園寺公衡により発願されたことがわかる。詞書は鎌倉初期に活躍した解脱房貞慶によってまとめられた霊験記をもとに、前関白・鷹司基忠と3人の息子により記され、絵は当時の宮廷絵師として最高位にあった高階隆兼が主宰した。

高階隆兼(不明-不明)は、鎌倉後期の宮廷絵師で、優れたやまと絵の描き手として名高い。詳しい経歴は不明だが、14世紀の前半期に宮廷絵所預の任にあった。宮廷絵所は、8世紀以降、公的な絵画制作の機関として設けられたもので、王朝文化が華開く12世紀に盛んに活躍し、その制作主任は預の官職に任じられて地位も向上したとされる。

掲載の場面は、藤原吉兼が見た夢をもとに描かれたもので、屋敷で眠る吉兼のもとに春日明神が貴女の姿で家の西南の竹林の上に飛来した。貴女は「我は汝の氏、春日大明神である。ここが竹林園に似ているので来宿した。この竹が繁っていれば、汝の子孫は繁昌するだろう」と告げた。吉兼は社を建て、竹林を守ることを誓ったという。

高階隆兼(不明-不明)たかしな・たかかね
鎌倉後期の宮廷絵師。延慶2年から元徳2年まで宮廷絵所預の任にあったと思われる。「春日権現験記絵巻」のほか「法相宗秘事絵詞」(玄奘三蔵絵)「駒競行幸絵巻」「矢田地蔵縁起絵巻」などの作品がある。他にも神輿の彩色や仏画の制作など幅広い活動が知られている。

京都(07)-画人伝・INDEX

文献:春日権現験記絵-蘇った鎌倉絵巻の名品、日本絵画名作101選、もっと知りたいやまと絵、やまと絵 日本絵画の原点